ヨルク・シュマイサー 終わりなき旅

 

ヨルク・シュマイサー 終わりなき旅

世界を旅した版画家、ヨルク・シュマイサーの回顧展に展示された作品図録。楽天のポイントキャンペンがあったのでせっかくだからという事で購入。アマゾンのレビューにもあったけど1ページ2枚構成がかなりあるのでもっと大きく見せてもらいたかった。

日本を含めた条件のものを多く持ち船を使っているのでオリエンタルな雰囲気を感じられる作品が多い(もちろんそうでないのも多くあるか)

緻密でありながら空白があり、博物図譜のような写実でありつつ、どこか抽象的。普通なら1つにならないものをコラージュ的に配置しながら唯一無二な世界観を掘り出している。

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ヨルクフォント

個人的にはこの人の日記といわれるシリーズに多く見られる、独特のフォントが気に入っている。遠目から見ると糸くずがモジャっとなっていて、A型の自分としては気持ち悪い事この上ない。ただ、よく見ると縦横無尽に飛び跳ねる子犬のような賑やかさで可愛くお洒落に見えてくる。そういう意味でも、もっと大きく作品を掲載してもらいたかったと思う。

 

 

グリーンブック

潔癖症天才ピアニストと粗雑なイタリア人系アメリカ人のボディーガードとのロードムービー

以下ネタバレ


これを見て「俺、黒人差別の怖さがわかった!」とか言うと「違うよ、くそ!」では済まされないことになりそうなので、というか語れるところもないでスルーする。

ボディーガードのトニーリップの人としての欠点と長所のバランスがとても良かった。黒人を差別しながらも仕事上の契約はきちんと守る。黒人ピアニストのドクターシャーリーの演奏を色眼鏡なしに評価できる。ただ、それ以外のところは粗雑で適当、いい加減、theイタリアンな感じ。
物語の終盤、ドンシャーリーが黒人が多くいるバーで現金を見せながら支払いをするところを見て、強盗に狙われているところを察するシーン。そのある種緊張感、不安感の演出されるはずの状況。なのに、しがらみから解放されたように楽しそうに友人の演奏を自分の事のように喜び最高な笑顔で楽しむ。そして当然現れた強盗は割とあっさり撃退する頼もしさ。

物語上のキャラクターの魅力がトニーリップに偏っているので、その辺が批判にさらされているんだろうなと思いつつ、それでもドンシャリーもいい味を出している。土産物屋に売っていた石をを盗んだことに対し戻せと声を荒げ(当然)、運転中外に投げ捨てた紙コップ拾えと譲らない(当たり前だけど)。だけど、固くうるさい部分だけでなくて、トニーが奥さんに送るために書いていた手紙の内容を添削してシェイクスピアみたいな内容にしたりするという優しさとユーモアとズレたところも描かれていて面倒な人なのにどうにも憎めない存在になっていた。

そんならなかなか相容れない2人が友情を築いていく過程がたまらなく楽しく愛おしかった。
ポスターにはラスト奇跡が起きる、みたいなことが書いてあったけどサプライズ的な意味での奇跡は一切なくて、天才肌の神経質な黒人と、トニーの気のいい嫁さんと、良い意味でいい加減なイタリア系アメリカ人の男たちが登場人物ならそうなるよな、と思わせてくれる幸せな終わり方だった。